ここでは、トリチウムに限らず放射性物質によって自然界が汚染されていることについて考察したい。
福島第一原発の事故後、各所で汚染の観察が続いている。特に、人体への影響が比較的大きいと言われるセシウムについては測定例が多い。拡散した量が少なかった核種や半減期が短いものについては測定例は少ないが影響はゼロではないはず。
半減期を迎える前にトリチウムを自然界に放出するのなら、これまでの汚染を踏まえて、そこに追加的な汚染として考慮する必要がある。それを考慮して、海洋放出賛成派にも「福島以外の海へ」と主張する人がいる。
そもろも、海はゴミ箱ではない。多くの生物の棲家であり、三次元に広がる命に満ちた奇跡的な空間である。我々人類の遠いふるさとでもあって、母なる海を汚せば、きっとしっぺ返しを食う。ヒトは、隣の家にゴミを捨ててはいけないという理屈は分かるのに、海洋生態系に迷惑をかけることには驚くほど無頓着だ。先人たちの海洋投棄の歴史はすさまじい。
島内に貯蔵されていた毒ガス3000トン以上とガス弾などは高知県土佐沖に海洋投棄されたほか、除毒処理をしてから島内の防空壕に埋められた。
初めての化学兵器使用から約100年が経過した。
世界の化学兵器処理の現状 :2018 年時点において化学兵器禁止条約締約国は 192ヶ国であり、化学兵器保有国は申告し廃棄処理を行う義務を有する。化学兵器は、ストックパイル(保管されているも の)と地下や水中等に投棄されたノンストックパイルに区分され、前者はカテゴリー1の全申告量の 96.3%が処理されたが、後者は処理が遅れていることが判明した。
2019年9月20日
日本学術会議報告書「老朽・遺棄化学兵器廃棄の安全と環境の保全に向けて」より
「戦争の世紀」と呼ばれた20世紀に、主要国は多くの化学兵器を製造した。第二次世界大戦後、連合国側は、日本やドイツなど敗戦国にあった化学兵器は海洋投棄することで合意。アメリカなど他国のものも合わせると海底や湖に眠る化学兵器は100万トン以上と見られている。
2014年NHK-BSスペシャル 世界のドキュメンタリー
「海底からの警告 ~化学兵器 大量投棄の実態~」より
2020.1.15
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構と国立大学法人福島大学が研究成果を発表
以下、抜粋。
「1F(福島第一原発)事故から約半年間における河川を通じた海洋へのセシウム流出量は、2017年末までの流出量の約6割を占めることがわかりました」
同時に、以下の数値も発表した。
1F事故から約半年間の河川を通じた海洋へのセシウム流出量は、1Fからの直接放出量が3.5千兆Bq、大気を経由した海洋へのフォールアウト量が7.6千兆Bq ※グラフの通り
このグラフを見ると、河川からの流出は非常に小さく無視して良い程度に見えるが、それは、事故後半年の直接および大気経由の汚染が激しかったためでもある。実際、29兆ベクレルは相当な量だ。また、除染しきれない多くの山林等※は今も汚染されたままであり(半減期など考慮すれば、ずっと同程度の汚染ではないとしても)、河川からの汚染は今後も細く長く続いていくことに注意したい。
※2019年12月時点で、コケから8万ベクレル/kg以上のセシウムが検出されている。
海洋放出を考える場合、これまでも、そして、これからも続く、河川経由の汚染と合算して生態系への影響を考慮する必要がある。
2014年
最後のまとめ部分から抜粋:トリチウム汚染の問題も無視することはできない。(中略)水分子中に存在するので、高濃度になると内部被ばく源として重要になる。(中略)半減期が比較的短いので、精製したトリチウム汚染水を地下タンク等に保管管理して減衰を待つ方法も考慮すべきである。
2014年
神田穣太氏「放射性核種の海洋環境への影響」
当時、継続的な汚染水の海洋への流出を示唆していた。その後、凍土壁などが完成。
ちなみに、凍土壁について、東京電力は「平成30年度土木学会技術賞」を受賞したということで、自社サイトで自画自賛しているが、他の方法がなぜ却下されたのか明確な理由が分からない、他の方法より電気代やコストが多くかかるなど、当初から反対意見が少なくなかった。東電によると1日当たり95トンの汚染水発生を防ぐ効果を上げているが、いまだ毎日170トンほど汚染水は増えている。また、国が345億円の補助金を投入したことから、税金を収めている私たち全員が関心を持って、その運用や効果を見守っていく必要がある。
参考:NHKサイト
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